小舘 俊
留学者の情報
氏名 | 小舘 俊 |
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所属 | 情報科学研究科 木下・大林研究室 |
留学期間 | 2018年9月 - 2019年3月 |
海外研修の受入先 | Dept. of Engineering Mathematics, University of Bristol, UK |
留学前の準備
広い意味での準備から書きます。私は指導教員の木下賢吾先生からご紹介いただき、博士1年次からデータ科学国際共同大学院(GP-DS)に所属していました。そのカリキュラムとして博士2年次に6ヶ月間の留学が課せられていましたが、入学時点では海外に行った経験が全くありませんでした。いきなり長期海外生活はしんどいだろうと思い、まず準備運動を兼ねて海外渡航の経験を積もうと考えました。そこでGP-DSの山田和範先生からご紹介いただいた、ドイツのゲッティンゲンで2週間開催されたData Science Summer Schoolに参加しました。飛行機の乗り方すら分からなかったので、ここでいろいろ経験しておいて良かったと思います。また研究室内で海外経験の豊富な西羽美先生に協力いただいて、英語で喋る会を定期的に開いて訓練していました。
博士2年になって留学の時期が迫り、まずは自分で留学先を探すことになりました。近い分野の海外の研究者との繋がりは持っていなかったので、自身の研究テーマに影響した、過去に読んだ論文の著者にメールを書きました。すると(そのグループのスタッフの方から)ビデオ通話で面談を行なう旨返信を頂き、自身の研究や興味のある分野、相手方のプロジェクトなどについて通話を行ないました。しかし結果としてはお断りされてしまいました。その後も別の人にメールを送るも返信がなかったりするなど、自分で探すのはしんどいなという状況でした。そこでGP-DSの方々に相談したところ、瀨川悦生先生を通じて、英ブリストル大学の増田直紀先生をご紹介いただきました。そしてビデオ通話での面談を経て、受け入れを快諾していただきました。瀨川先生にはその後も留学先での研究に備えての勉強会を開いていただくなど、大変お世話になりました。
留学先での研究課題は、増田先生からいくつか候補を提示していただき決定しました。結果としてそれまでの私の研究とは違う課題に取り組むことになったのですが、研究に用いる道具(ネットワーク解析)は共通しているということで、私としてもこれはポジティブに受け入れました。この課題は日本の企業からデータを提供されての共同研究で、留学前にはオフィスに1週間ほど通って、先方がどのように動いているかなどの共有をしてもらいました。
留学先での住居探しはやや大変でした。学生寮などはちょうど新学期の時期のためかもう空いていなく、ほかを当たる必要がありました。しかし一般の賃貸を調べてみると、短くても10ヶ月からの契約しかないという状況でした(この点では6ヶ月というのは長いようでそうでもない期間なのかも)。そこで、Airbnbを使って民泊を探すことにしました。場所・予算を考えて候補を見つけて、6ヶ月間利用したいと(この場合は長めの期間と思われるのでダメ元で)申し込んだところ、OKをもらうことができました。家賃は8万円/月程度でした。ダメだったら3ヶ月×2箇所などを考えていたので、これはうまく行って幸運でした。
その他の準備としては、海外で使えるプリペイドカード(マネパカード)を取得しました。結果として買い物はこれでほぼ事足りて、現金が必要な時にもATMが使えるので大変役立ちました。携帯電話の通信は、1日単位で定額で使えるサービス(au・世界データ定額)があったので、それを使えるようにしていきました。しかし学内ではeduroamが使えて、家にも快適な環境があり、町中でもフリーWi-Fiが結構使えたので、これはほとんど使いませんでした。それでも緊急事態を考えるとあったほうが良いかなとは思います(使わなければタダだし)。常備薬なども必要でしょう(一回風邪引いてお世話になった。持っていき忘れたが必要になって現地で買ったものもあった)。食器やお風呂用品等も持っていきましたが、家に(共用の)十分な備えがあったり近所のスーパーで買えたりしたので、結果的には必要ありませんでした。特に石鹸は硬水と相性が悪いのを知らずに持っていき、結局使わないという失敗をしました。パスポートは既に取得済みで、ビザも6ヶ月までの滞在なら事前に発行する必要はなかったので(そうと分かるまでに少し苦労したけれども)、空港で滞在目的・場所、それを証明する書類などのやり取りをしてそれで済みました(研究分野を聞かれたのがちょっとおもしろかった)。
またお金がかかる部分として、保険は6ヶ月分となるとそれなりの額(自分の場合は8万円弱)になるのですが、必須でしょう。スーツケースは無料預け入れできる中で最大のものを買いましたが、行きの便では重量オーバーで6,000円支払いました。必要経費と割り切るほうがよさそうです。このあたりや航空券代(12万円。これはすぐ戻ってくるとはいえ)、日本のもの含めた家賃などもあって初めの2ヶ月くらいはクレジットカードの限度額(30万円)近く飛んでいったので、正直なところ結構な元手は必要だと思います。
持っていかなかったがあった方が良かったと思うものは、身分を証明する国際学生証などです。これは以前海外に滞在する際に作った経験があったのですが、それを忘れていて今回は用意しませんでした。しかし事情は後述しますが、せっかく存在を知っていたし新しく作るのも簡単なので、これはあった方が良かったと思います。またご飯などの日本食は、人によっては準備した方がいいかもしれません。現地でもアジア系のスーパーに行けばありますが、どこのスーパーにでもあるわけではないです。私は特に日本食じゃないとダメということはないと分かっていたので、備蓄用のうどんだけ持っていきました。もう一つ反省を書いておくと、航空機は直行便を選べばよかったと思いました。冒頭に書いた最初の海外渡航に利用したのが(タイ)経由便だったため、遠くに安く行くには経由便を使うものだという思い込みがあり、今回もインド経由という変な便を選んでしまいました。予約した時期が遅かったりと他の要因もあったのですが、もうちょっと楽な方法があったような気がします。こんな人は他にいないとは思いますが、念の為共有しておきます。
留学先での生活
ブリストルはロンドンから電車またはバスで2時間ほどで着きます。日本人は少なく、街中で日本語を聞くことは滞在中1, 2回しかありませんでした(身内除く。ロンドンでは結構聞こえた)。これもいきなりしょうもない反省なのですが、着いたその足で大学に向かう日程を組んだため、機内であまり眠れずフラフラの(同僚曰く「ゾンビみたいだった」)状態で初日を過ごしました。手続きだけだったとはいえ、まず家に行って一休みしてから勤務を始めた方がよかったです。家は街の外れにあり、家主含めて5人ほどが暮らすシェアハウスでした。家主はフルタイムで働いていて、同居人も結構入れ替わり、特に後半は自分があまり家にいなかったのもあってそこまで密に交流できたわけではなかったものの、時にはパーティーが開かれたりといい経験ができました。部屋は一人ずつあったので、一人で落ち着く時間も確保できました。私の借りた部屋はビジネスホテル程度の小さいものでしたが、最低限の機能があればいいと思っていたし、また共用部分が広いのもあって不自由さは感じませんでした。家主はきれい好きな人で管理は行き届いており、また徒歩3分程度のところに大きなスーパーがあって大変便利でした。これはかなりのアタリを引いたと思っていて、家が快適であることは(留学)生活においてかなり重要だなと感じています。強いてひとつ欠点を挙げれば(分かっていて借りたのだが)学校が遠いことで、歩いて40~50分かけて通っていました。その他考えた手段としては、バスは現金の用意が面倒(コンタクトレスのカードなら使えるが、持ってない)かつ資金が結構厳しめだったので使いませんでした。また自転車という手もあって、これはシェアバイクのサービス(1ポンド/回。定額使い放題もあり)があったので一時期使っていましたが、坂道が多かったり車道を走る(ルールです)のに慣れず降りて歩くことが多かったりで、結局あまり早くならずやめてしまいました。幸い歩くのは好きだったので、毎日楽しく歩いていました。
増田研は5人ほどの小さなグループでした。データ解析の仕事なので、基本的には一人で作業していましたが、増田先生とは週1回程度はお話しする機会を設けてもらって研究を進めていました。また企業との共同研究であったため、進捗報告やデータ追加の要望などでこちらも週1回程度、先方の担当の方とビデオ会議を行なっていました。日本の18時開始でしたが、こちらは朝9時か10時なので、そこそこ早くに家を出て学校(増田先生と一緒に参加のため)に行く必要があり、それなりに忙しかったです。作業環境としては学内のスパコンを使うための申請や環境構築などで少し手間取ったものの、それらが整ってからは特に問題なく進めることができました。ラボ全体で集まっての定期的なセミナーや報告会などはありませんでしたが、昼食は週3, 4回は全員(増田先生は月一くらい)で集まって食べて、その後のコーヒータイムまで定番でした。これが面白く、狭い意味での専門家に囲まれるのは初めてだったのでものの見方や研究(者)動向の話が新鮮であったことや、人数は少ないながらも出自は多様で様々に興味深いことなどから、毎日の楽しみになっていました。連絡手段や雑談にはメッセージアプリのWhatsAppも使っていて、このあたりで(カジュアルなもの含め)英語表現を学べた部分もあると思います。
イギリスの話題で欠かせないのは食事だと思いますが、私はそれほど苦労しませんでした(この値段でこれかよ、というのもたまにはあったが……)。朝食はバナナや、ミュースリ(フルグラみたいなの)と牛乳あるいはヨーグルト(1kgで1.55ポンド、安くて美味しい)などを家で食べていました(私の場合日本と同じ)。牛乳やヨーグルトなどの乳製品は総じて美味しかったです。昼食は、みんなが使うような学食はない(一応しょぼいのがあると聞いたが、本当にしょぼいらしいし我々のオフィスの近くにはない)ので、スーパーか近隣の店の持ち帰り(takeaway)を使っていました。安めのレストランでフィッシュアンドチップスやバーガー、ピザ、カレーなどを食べることもありました。夜はスーパーで買って帰るか、自炊していました。スーパーで買う場合は昼も夜も5~6ポンド程度に抑えるようにして惣菜パンなどを買っていましたが、あまり不満はありませんでした。自炊はパスタやクスクス(粒状のパスタのようなもの。お湯ですぐ戻せてお手軽)を野菜や肉と一緒に調理することが多かったです。飲み会を兼ねてパブに繰り出すことも折々ありました。
平日はおおよそ家と学校を行き来する生活でしたが、休日は色々なところに行きました。家の近所に大きな公園があったのでよく歩いたほか、カフェやパブなどもよく行きました。研究会や学会などでロンドン、グリニッジ、ケンブリッジなどへの出張があったため、その際には観光も楽しみました。とはいえ(資金の都合もあったが)基本的に出不精なので、ロンドンに1回行ったほかはあまり私用での遠出はしませんでした。そのぶん街中の観光スポットや市場などは満喫できたかなと思います。ちょっとしたトラブルとしては、家のルール(洗濯物を干す場所)を誤解していたことがありましたが、これは家主が気付いて教えてくれたので事なきを得ました。街の治安は特に悪くないとは思うのですが、お金めぐんでくれ的なことで声をかけられたのが2回あり、iPhoneで地図を見ながら歩いていたら「それ売ってくれ」と言われたこともありました。別の国ですが持って歩いていたらサッと盗られたという話も後に聞いたので、やや警戒が足りなかったかなとも思います。またこれは自分の不手際なのですが、着いてすぐの時期にラボメンバーとパブで飲んでいる時、警官と思われる人が年齢を証明するものを見せるよう廻ってきました。その時持っていた職員証のようなカードではダメで、今回だけは見逃すときつく言われてしまいました。それ以来パスポートを常に持ち歩くことにしたのですが、これは安全上あまり良くない策で、国際学生証などを持っていけば良かったと思いました。
細々した問題には遭遇したものの、周りの方々の親切もあって大きなトラブルはなく6ヶ月を過ごすことができました。
得られた成果・帰国後の変化
留学中の研究はなかなかうまくいきました。成果をまとめて国際学会に投稿したところ採択され、(帰国後、5月にアメリカで)ポスター発表を行なうことができました。また論文としてもまとめて投稿することができ、博士論文の一部ともなりました。また日本で行なっていた自分の研究内容についてもプレゼンやディスカッションをする機会があり、アドバイスを頂くことができました。
なによりも6ヶ月という(自分としては)長期間を国外で生き抜いたということ自体が、大きな経験になったと感じています。事前の様々な準備や手続き、日常の生活習慣など含めて、なにをやったらいいか、どう振る舞ったらいいか分からないということはあまりなくなったのではないかと思います。ただし私はもともとおしゃべりでもないので、急に英語ペラペラになったわけではないです。その辺りを変えたかったら意識して変える必要があるなとは実感しました。また当然ですが、母国語で自分が理解/表現できないことはそれ以外の言語でもだいたい無理です。まずは日本語でもいいので、普段から色々なことを説明できる程度に知っておく心がけが大事だと改めて感じました。ともあれ、国外の空気に触れて、自国と照らしてなにが当たり前でなにがそうでないのかを体感することは、当座のコスト以上に大きな意味があると思います。活動の場は世界に開けているのだということを知り、国内外の文化について見識を深めることは、多様な出自・価値観をもつ人々と関わることが今後予想される上で、ますます大事なことになってくるはずです。
最後に、準備段階含めての困難や反省点は多々ありつつも留学が実現しなんとかなったのは、上に名前を挙げた先生方や、GP-DS事務の小山郁美さん、木下研および増田研のみなさま、また経済面などで理解・支援をいただいた両親など、多くの人に助けられてのことです。この場をお借りして御礼申し上げます。この原稿が留学を考えたり控えたりしているみなさまの参考になれば幸いです。