海外研修レポート

五十嵐 未来

留学者の情報

氏名五十嵐 未来
所属経済学研究科 照井研究室
留学期間2019年8月 - 2020年1月
海外研修の受入先Robert H. Smith School of Business, University of Maryland, USA

留学前の準備

まず、研究についてですが、私の場合は、自身の研究の進捗を考慮しながら留学中の研究計画について現在の指導教員と議論しました。時期としては留学開始の半年ほど前だったかと思います。結果として、留学開始直前に始めた新たなプロジェクト二つを持って行き、滞在先の先生方と議論しながら進めることになりました。研究の初期段階のプロジェクトを持って行くことで得られたメリットもありましたが、振り返って考えると、初期段階のプロジェクト一つと、ある程度結果が出ているプロジェクト一つのように進捗状況の異なるプロジェクトを持って行く方がベターだったのではないかと思います。というのも、初期段階のプロジェクトを持って行った場合、滞在先の先生方と議論した後に、「○○をやってみて、結果が出たら議論しよう」という結論になることが多く、結局一人で研究する時間が多くなってしまうからです。もちろん、そのような研究指導でも、研究の初期段階から世界の最先端の先生方から有意義なコメントをもらうことになるので、実りあるものではありますが、フェーズの異なるプロジェクトを持って行けば、片方のプロジェクトで分析の準備をしながらもう片方では結果の解釈について議論を深める、といったようなより効率的な留学期間の使い方ができたのではないかと思います。

次に、研究以外の全般的なことについてですが、私のビザの種類はJ1ビザと呼ばれる就労ビザの一種でした。ある程度手続きに時間がかかることが分かっており、また、留学開始の一年近く前から先方からの案内メールがあったので、比較的余裕をもって手続きできたかなと思います。ただ、滞在先についてはビザの手続きがほぼ完了した時点で探し始めたため(滞在開始日の確定を待ってからの方がスムーズに手続きできるため)、少し慌ただしくなってしまいました。初めは、キャンパス近くのアパートを借りようと思っていましたが、滞在期間の6か月というのがイレギュラーなものらしく(1年のリースが基本)、オンライン上の手続きではなく、直接交渉する必要がありました。メールで連絡しようと何度か試みましたが、返信が遅く面倒であったため、結局Airbnbで見つけた長期滞在可能な部屋をレンタルしました。生活に必要なものはすべてそろっていて、公共料金の手続きなどもいらないので、生活のスタートは楽でしたが、やや割高なのがデメリットです(安価なホテルに泊まり続けるよりも安いが、もちろんアパートの方がもっと安い)。後から気付いた選択肢としては、初めの1・2週間程度をAirbnbのような手軽な部屋で過ごし、その間に現地で本拠地となる部屋を探すというものです。こちらの方が、スムーズに生活をスタートさせながら、現地の様子を考慮して部屋探しをできるので、スマートな選択肢だと思います。

留学先での生活

留学先のメリランド大学では、先生方のオフィスがあるフロアの空きオフィスをもらい、日々そこで研究に取り組みました。院生室のデスク一個を借りるのだと想像していたので、かなりの環境の良さに驚きました。また、学生としての留学ではなく、Visiting Scalarとしての滞在なので、単位を取得する必要はありませんでしたが、滞在先の指導教員の勧めで、その指導教員が受け持つ授業に参加することになりました。アメリカの大学院は日本と異なり、Doctorであっても相当数の単位を取得する必要があり、皆意欲的に授業に取り組んでいました。研究に割ける時間が減ってしまうため、日本式と比べると一長一短ではありますが、大学院であってもしっかりと基礎固めをする重要性を学びました。

授業がない時間帯は基本的に自室で研究するか、指導教員と議論するかという生活でした。もらったオフィスが指導教員の目の前だったため、毎日「How are you? How’s your research going?」という会話が始まり、英会話の練習だけでなく、日々の研究のモチベーションにつながっていました。私は、英語はむしろ不得意な方で、留学開始直後は指導教員の英語を聞き取ることから苦労していました。しかし、何度も繰り返し聞いていくうちに、リスニング能力は改善したようで、バックグラウンドの知識を共有していない話題でも会話が続くようになりました。ただ、スピーキングについては自分の満足するラインまでは成長せず、もっと積極的に会話をして、英語を話す機会を増やすことが大事だったと反省しています。

メリランド大学のキャンパスはとても広大な土地に点在していて、至る所に木々や芝生の公園があり、研究の息抜きによく散歩していました(気温は同じくらいですが、仙台よりも晴れの日が多かったような気がします)。

igarashi_01 キャンパス内にある図書館.目の前には広大な公園があり、よく日光浴していました.
igarashi_02 オフィスがある建物. 教員のオフィスから院生室、教室、セミナー室など全てがこの建物内に入っています.

私が住んでいたメリランド州は、首都のワシントンD.C.まで地下鉄で数駅ほどの近さなので、進捗に余裕のある週末は観光に行っていました。D.C.には多くのプロスポーツチームがあり、特に、MLBのワシントンナショナルズは、2019年シーズンにWSを初めて制してかなり盛り上がっていました。また、NBAのウィザーズは、今年のドラフト1位で八村塁選手を獲得していて、私が行った2019年はスポーツ観戦としては最高のシーズンだったと思います。スポーツ施設の他にも、D.C.市内には数えきれないほどのミュージアムがあり、全部を回ることはできませんでしたが、どれも日本では考えられない規模の展示数であり、アメリカらしさを感じる場所でした

igarashi_03 ワシントンナショナルズの本拠地ナショナルズパーク.大リーグの球場では、日本のように着席して観戦するだけでなく、出店のあるフロアに立ち食いしながらグラウンドを見下ろせる場所があり、雰囲気が良かったです.
igarashi_04 ワシントンD.C.市内の街並み.建物がどれも装飾が凝っていて、ずっと見ていられます.
igarashi_05 >国立自然史博物館の有名なアフリカ象はく製.ナイトミュージアムで有名な博物館です.
igarashi_06 ナショナル・ポートレート・ギャラリー.アメリカの歴代大統領の肖像画が並ぶコーナーが印象に残っています.

得られた成果・帰国後の変化

この留学中では多くのことを得られましたが、一番の成果は、留学先の指導教員との共同研究を複数スタートさせることができたことです。多くの分野に共通することだと思いますが、日本人研究者にとって、海外の研究者との共同研究を行い、国際的なトップジャーナルに論文を掲載することは、研究キャリアにとって大きなアドバンテージとなります。そのようなチャンスを大学院生のうちに得られたことは、とても大きな一歩となりました。しかし、留学先の指導教員との最後のディスカッションでも言われましたが、これからこのチャンスを活かしていくことの方がはるかに大事であり、気を引き締め直して研究に取り組んでいきたいと思います。  また、普段在籍している研究室を離れ、新たな環境に身を置いて研究できたことも良い経験となりました。自分の研究をよく知る指導教員との議論を続けていると、どうしても視野が狭くなり、新たな視点から自身の研究を整理する機会が自然と減ってしまいます。この留学によって、自身の研究を全く知らない、かつ専門分野を共有する先生に対して研究内容を説明し、意見を引き出すという機会が多くありました。その度に、自身の研究を見つめ直すことになり、さらにそれを英語でアウトプットするためにさらに研ぎ澄ます必要がありました。これによって、研究の現在地だけでなくその先も見通した計画を立てられるようになり、今後の博士生活、そしてそれに続く研究生活にとって良い影響が出てくるのではないかと思っています。