海外研修レポート

二宮 小牧

留学者の情報

氏名二宮 小牧
所属生命科学研究科 分子細胞生物学(大橋研究室)
留学期間2019年10月 - 2020年4月
海外研修の受入先シンガポール国立大学,メカノバイオロジー研究所

留学前の準備

留学先の決定には最も多くの時間を費やしたと同時に、沢山の方のご尽力をいただきました。留学先を決めるに辺り重視したのは、私の博士課程での研究領域に近く、新しい技術を積極的に導入していたり、セミナーや国際会議の開催が盛んであることなど、とにかく活発な研究環境に身を置きたいということでした。6ヶ月間という短い期間ですが、博士過程在学中の貴重な時間ですので、留学を通して自分の研究を発展させる技術やアイデアを少しでも多く吸収したいと思いました。各国の興味のある研究室を候補に、私の博士過程の指導教員である大橋先生と相談し、先生から先方のPIに打診の連絡を何件かしていただき、次第に候補が絞られていきました。この過程では、私のような留学希望者を他にも多くサポートしているGP-DSの先生方にも何度もご相談させていただき、様々なハードルを乗り越えることができました。最終的には、大橋先生が面識のあったシンガポール国立大学のメカノバイオロジー研究所の日本人の先生方のご好意のお陰で、当初から第一希望としていた同研究所のPIの先生と日本の学会で直接お会いする機会を得ました。ここからは留学希望先のPIの先生に、私のこれまでの研究内容をプレゼンしたり、留学中に取り組みたいことを議論したりと、模擬的な就職活動の様な経験ができました。私の留学について快諾いただいてからは何度かオンラインでのインタビューをしましたが、直接顔を合わせて話をするよりも英語力向上の必要性を痛感し、この頃から所属する研究室でのセミナーなどを英語で行うなどしてアカデミックな英会話の練習を心掛けるようになりました。他にも現地の住宅事情やビザ取得のための情報を収集したりと、研究以外の準備に非常に多くの時間がかかりました。ここでも留学先のPI、そして日本人の先生にも沢山の心強いサポートを賜り、初めてのシンガポールへの渡航で不安もありましたが、現地に知り合いがいると思うだけで随分と気が楽になったのを覚えています。初めは興味のある研究室を見つけてもどの様にアクションすればよいか分かりませんでしたが、周囲に自分の希望を発信することでサポートしてくださる方が次々と現れ縁が繋がっていきました。留学前にとても貴重な経験をさせていただきました。

留学先での生活

私が留学したシンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所は、世界中から研究者が集まりメカノバイオロジー分野を牽引する世界屈指の研究拠点です。頻繁に国際シンポジウムやセミナーが開催され、また研究所はオープンラボ形式を採用しているため、居室や実験室では異なるPIのチームに属する研究者と普段から肩を並べて過ごすことができ、多くのポスドクや学生と知り合うチャンスがありました。まさしく私が留学前に希望していたような活発な研究環境で、毎日が非常に刺激的でした。一方で、語学力の面では、自分の言いたいことや聞きたいことが制約されてしまい、機器の使い方を教わることから研究のディスカッションまで苦労の連続でした。会話にうまく入れなくても毎日同僚とランチに行ったり、他人のプレゼンやディスカッションを聞きながら便利な英語表現をメモして自分でも使ってみたりと、半年の間に少しずつですが、英語で自分の研究について話すことに慣れていきました。しかしながら、日本語で話す時と比べるとまだまだ英語では充分に自分の考えを表現できず、留学中に培った英語力をベースに現在も英語学習を継続しています。語学力の他にも、実験のトラブルや計画が思い通りにいかないことが沢山ありましたが、その度にPIや周囲の人に相談すると、いつも優しく丁寧にアドバイスをいただきました。当研究所の性質として自分の国を離れてシンガポールに研究しに来ている人がほとんどであり、皆それぞれが孤独や不安を乗り越えているからこそ互いに支え合い楽しく研究し、暮らしていこうという雰囲気がありました。私もそのお陰で最後まで研究を続けることができました。

ninomiya_03 平日のアフターファイブは、研究所の様々なチームのみんなとディナー.
ninomiya_04 チームのメンバーと旧正月に伝統的なLo Hei(シンガポール版おせち)を体験.

得られた成果・帰国後の変化

最先端の実験技術や研究を日々目の当たりにできたことはもちろんですが、留学中に特に印象的だったことは、研究と私生活のバランスの取り方がどの研究者も非常に上手だったことです。これまで私の周りでは長期休暇を取る人は少なく、休日返上で実験計画を立てる人が多い印象でした。一方、シンガポールで出会った同僚は、クリスマス休暇で1ヶ月母国に帰ったり(!)、日曜日は研究以外のことをしてリフレッシュすることを大切にしていたりと、心と頭をしっかり休ませることが結果的に研究においても相乗効果が生まれるということを体現していました。もちろん研究に対する情熱やストイックさは、国や生活スタイルが違っても同じです。私もこれをきっかけに日本での生活を見直し、帰国後はより良い研究生活のためにも、研究以外の自分の生活を大切にするようになりました。また、留学中に出会った人とは、今でも研究についての質問やディスカッションなどで頻繁に連絡を取り合っています。私の場合は帰国直前に新型コロナウイルスの流行が始まったこともあり、お互いの母国や安全を気遣う連絡も続いています。この様に留学中に知り合った研究者やシンガポールで支えてくれた多くの人は、私にとって財産であり今後もこの繋がりを大切にしていきたいと思います。研究者としての自分の将来を考えた時に、相談に乗ってくれる研究者と多く出会えた事は非常に心強いです。また、博士号取得後に海外の研究機関に留学することに対しても、今回の留学で自信が付き自分の中のハードルがひとつ下がり、自分の将来について選択肢が広がった様に思います。

最後にはなりますが、改めて今回の私の留学においてご尽力いただいた全ての皆様に感謝申し上げます。私の経験が、これから海外留学を考えている方への参考になれば幸いです。

ninomiya_02 チームのメンバーが開いてくれたFarewell party. 新型コロナウイルスの流行初期だったためソーシャルディスタンスをとって記念撮影.
ninomiya_02 年越しに観に行ったマリーナベイのカウントダウン花火ショー.