海外研修レポート

舟山 弘晃

留学者の情報

氏名舟山 弘晃
所属情報科学研究科 坂口・乾 研究室
留学期間2023年11月 - 2024年4月
海外研修の受入先Innovative Educational Computing Laboratory, Department of Computer Science, North Carolina State University

留学前の準備

自然言語処理を専門とする私は、その教育応用をテーマとして研究を行っていた。国内の研究室ではなかなか得られない教育AIの実践的な知見や視野を得るため、そして、指導教員から託された「海外の教育AI研究拠点とのネットワークの構築」という使命を果たすため、2023年の晩秋から翌年の春まで、私はノースカロライナ州立大学に滞在した。

この留学実現に向けた道のりには多くの困難があった。所属研究室は、自然言語処理を中心的課題として長らく研究を行っていたが、教育応用に関する研究は着手しはじめたばかりであった。私の指導教員にも、教育AI分野の国際的なコネクションがなかったため、留学を考え始めた当初は、「どの国の、どの研究室に行くか」具体的なプランはまったくなかった。

そんな中で、留学計画を具体化する契機となったのは、2022年に英国で開催された教育AIの国際会議「AIED2022」だった。会議では英会話に不慣れながらも、留学先を見つけるための多くの先生方に話しかけた。そこで出会ったノースカロライナ州立大学の松田先生とのご縁が留学実現の鍵となった。しかし、国内で進行中の研究プロジェクトなどとの整合を考えると、すぐに渡航することは難しく、翌年8月のAIED2024にてお会いした際に再び松田先生とお会いし、具体的な留学計画を立て、本格的な準備に着手した。それから、渡航後の研究計画のすり合わせや、受け入れ証明書の準備をはじめとする事務手続き、ビザの取得などを行い、2023年の11月に出発が決まった。わずか2ヶ月程度でビザを取得するなど、綱渡りのスケジュールであった。

留学前の準備で最も頭を悩ませたのは、現地の住居確保だった。松田先生にも尽力いただいたが、半年間という短期間の滞在に加え、学期途中での入居というハードルもあり、一般的な賃貸契約を行うことができなかった。また、大学寮も主に学部生向けに提供されており、博士学生の短期滞在を想定した枠はほとんどなく、最終的には、出発1週間前にAirbnbを手配し、そこに滞在することを決めた。その分、滞在費用は予想を大幅に超過してしまった。これから留学を検討する方には、留学のスケジュールを早めに確定し、住宅調達をなるべく早めにおこなうことを強くお勧めしたい。

また、研究計画についても事前にオンラインで議論を重ねてはいたが、半年という限られた期間の中で完結させるには詳細が詰め切れていなかった。半年という期間は、一つの研究プロジェクトを完遂するにはあまりにも短く、あらかじめ「どのような手順で、どこまで進めるか」という具体的な目標を立てておく必要性を痛感した。

留学先での生活

ノースカロライナ州立大学は、人口約50万人のローリー郊外の緑豊かで落ち着いた場所に位置していた。渡航前はアメリカの治安に不安があったが、実際に滞在してみると、街はのどかで静かであり、一部の例外的な事件を除いて、不安を感じることはほとんどなかった。気候も仙台とほぼ変わらず過ごしやすく、生活環境にはほとんど問題がなかった。

funayama_01 (左上)近所の公園(Pullen Park)(右上)ダイナー、洋画の世界を味わった(左下)隣近所で銃撃事件が発生 (右下)ダウンタウン全景

キャンパスはとても広大で、森を切り開いて大学を作ったかのような印象を受けた。キャンパスには、全体的に学生同士が自然と交流するためのスペースが多く配置されていた。特に図書館は日本とは大きく異なり、「本を借りる、読む」場所というより、学生同士が交流するコミュニティスペースとしての側面が強かった。また、晴れた日には中庭でiPadを片手に論文を読んだりするなど、リラックスしながら研究に集中できる環境が整っていた。 また、無料のキャンパスバスが複数路線運行されており、20分間隔程度で周辺住宅街や商業エリアと大学を結んでいたため、とても便利であった。スマホアプリを使ってバスの位置をリアルタイムで確認できたため、通学や買い物にも重宝した。

funayama_02 (左上)大学図書館内のe-sportコーナー(配信設備が完備)(右上) 大学付属のジム(4階すべてがジムエリア)(左下)大学内の湖(天気のいい日には湖畔でコーヒを飲みながら思索)(右下)大学中庭

研究室はワンフロアの広いオフィススペースを複数の研究グループがシェアする形式で、私は専用のデスクを与えられ、朝から夕方まで集中して研究に取り組むことができた。大学にはアメリカ人はもちろん、中国やインドなど様々な国の学生が集まっており、留学生の割合は半数にも及ぶ印象だった。その中でもバングラデシュ出身の友人が親切にしてくれ、そこから多くの留学生仲間と知り合う機会が得られた。英語での議論やプレゼンテーションを日常的に経験できたことは、大きな糧となった。

funayama_03 ラボメンバー、手前右から二人目が自分

滞在中は、時間を見つけてニューヨークやワシントンへと旅行に行った。世界経済や政治の中心地を自分の目で見ることで多くの刺激を得ることができた。もちろん、ニューヨークやワシントンは(特にニューヨークは桁違に)物価が高く、「国内旅行」とはいえ多くの旅費を要した。しかし、この旅行で得た経験は自らのキャリアを考えるうえで大きな励みとなり、コストをはるかに上回る価値を得られたと考えている。

funayama_04 (左上)アメリカ合衆国議会議事堂 (右下)ニューヨーク、ブルックリン・ブリッジより(右) タイムズスクエア

留学中の経済状況については、物価高や円安の影響で常に厳しかった。東北大学からの支援金だけでは足りず、貯金を崩して凌ぐ必要があった。年々高騰するアメリカの住宅費を考えると、学期に合わせた渡航やルームシェア、サブリースの活用など、事前に資金計画や住宅戦略を練っておくべきだったと反省している。さらに、現地で様々な経験を得ようとすると、活動費用がかかる。留学を検討している方には、事前の入念な準備により住居費などの固定費を節約することで、活動費用を捻出し、留学の機会を最大限活用してほしい。

得られた成果

渡航前の準備不足が影響し、残念ながら研究成果は限定的なものにとどまった。現地での生活に慣れる時間を考えると実質研究に使える時間は3、4ヶ月程度しかない。事前の入念な研究計画が重要であることを痛感した。 しかし、教育AIを専門とする研究室で、教育現場における技術評価の方法論や国際的な研究動向を学ぶことができたことは、自分にとってかけがえのない財産であり、自身の研究や視野を大いに広げる事ができたと考えている。

英語力の面でも着実な前進を感じている。流暢とは言えないまでも、必要な場面でしっかりと自分の意見を伝えられる自信がついた。国際的なチームで働く機会は今後増えると考えられ、今回培ったコミュニケーション力は確実に役立つと確信している。

また、現地で親しくなった友人とは、帰国後も連絡が続いている。かけがえのない友人が得られたことは、留学の大きな成果のひとつだと思う。さらに、自分が所属する東北大の研究室と留学先の研究室との交流も継続しており、ネットワークの構築という面でも成功を収めたと考えている。

半年間の留学は、短い準備期間や不十分な研究計画などの課題を抱えながらも、国際的な研究環境に触れ、新たな知見や人脈を得る貴重な経験となった。研究そのものを完遂できなかった悔しさはあるが、得られた学びや人的つながり、そして自信は、今後のキャリア形成に確かな糧となると考えている。留学を検討する方には、特に住居や資金の確保、そして研究計画の明確化を強くおすすめしたい。